終章

それから。数日が過ぎた。
 エリュシオンは平和な日常を取り戻し、エリュシオンの住人たちはそれぞれの新しい生活を始めていた。
 以前と比べて、森林と湖の範囲が広がってしまったらしいが、問題ないとのこと。ま、文句を言われても困るんだけどね。
 最近、私はケーキばかり焼いている。胡桃ケーキやチーズケーキもそうだが、いまはブルーベリーパイを焼いている。
 ちなみに、胡桃やチーズの材料は絵で描いたものではない。皆分けてもらったものだ。ブルーベリーをはじめた理由は、森にブルーベリーの生るところができたため。
 私の想いがそうさせたのか知らないが、森には沢山の木の実や果実が出来るようになったと毬藻さんがほくほくした顔で話していた。
 居間にいる同居人の会話が背中越しに聞こえてくる。アルはブルーベリーパイを頬張りながら、不満そうに口を動かしている。
「アウラの作るものは僕が食べるって決まっているのに。どうして君がここにいるのさ。僕の分が減っちゃうでしょ」
 対する、白い毛並みを持つ狼男。クエルは半眼でチーズケーキとミルクティーでお茶をしている。
「お前こそ。俺とアウラに水を差すような真似するんだ。早く独り立ちしろ」
 私にとっては食べるだけのあんたたちが一番邪魔なんだけどね、と心の中で悪態をついておく。
 クエルは毎日のように私のところに通ってくる。それは……私が返事を返していないからだ。何か食べさせておけば口が塞がるので返事をせずに済んでいる。
 今の私の願いは、『素直になれる事』かな。
 まぁ、生ぬるい関係を続けているのも心地いいし、悪くない。新鮮な気持ちを忘れずにすむからね。
 次に描く『世界』はどんな題材にしようか。
 私は、新作ケーキの焼き上がりを見ながら、そんな考えをめぐらせていた。

世界の描きかた教えます 終章

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