セリア姫が俺を携えて舞い降りる。
着地すると同時に、背中の翼と腕の爪が消えた。様子もおかしいところはない。いつものセリア姫だ。
歩こうとしてカクンッと膝を折る。セリア姫はその場にしゃがみこんでしまう。自分でも疲労ぶりに驚いているようで、目を丸くしていた。
「セリア姫、大丈夫ですか?」
俺が耳元で囁くと、セリア姫はフラフラと立ち上がった。
「もちろんです」
クスクスと口元を押さえて笑うセリア姫。陛下をこの手に掛けた事を悔やむ様子は微塵も見せない。すべてを振り払った気持ちを受け止めた素顔だ。
「これからどうするのです?」
吹き抜ける風にセリア姫の長い髪がたなびいている。その横顔はどこか大人っぽく見えた。
「ハイアット王国に戻り、王位を継ぎます。恐らく、父上も遺言状を残しているでしょうしね」
お返し、とばかりに、セリア姫は俺に向き直り問いかけた。
「イニアス様はどうなさるの?」
願いは一つ。答える事は決まっている。俺はセリア姫の下に跪く。
「私はセリア姫の騎士です。王に為ってもその守りをさせていただきたい」
迷うことなくセリア姫は笑みを零し、頷いた。
「ありがとう、私の騎士様」
どこまでも青い空の下で、白金の髪をなびかせた少女と一振りの剣は、まだ見ぬ未来を描きつつ立ち尽くしていた。